
4月3日から米国では iPad が発売されます。iPad のニュースは至る所に溢れていますが、今週に入って Apple は発売日から Appleの「iBook Store」で 3万冊を超える名作タイトルが無料で利用可能になると報じています。
電子ブックはフリー・デジタル・ライブラリから提供されるということで、パブリック・ドメインの(著作権の消滅した)文学作品をデジタル化したものが利用できるということです。
appadvice のニュース記事
最初から 3万冊の電子ブックを引っ提げての登場ということは Apple がこの市場にかける意気込みを表しています。電子ブックを読むためのアプリケーション「iBooks」は iPadにプリ・インストールされないため利用するには「App Store」から無料ダウンロードをする必要があるにしても、こうしたライブラリは iPad の普及に大きく貢献するでしょう。
電子ブックの価格も Amazon.com の Kindle と同じになるという噂であり、かつ Amazon.com と Barnes & Noble もそれぞれ iPad 向けに電子ブック・ストアを構えることになっていることは、電子ブック化の流れは iPad のリリースを契機に一層進むといえるでしょう。
iPad は4月末には日本でも発売されます。Amazon.com の Kindle にも日本語対応が出るということにもなっています。Google も約 200万点の書籍を電子化しています。そして Microsoft も電子出版を開始します。しかしこれはアメリカおよび世界の状況であって、日本の実情ではないようですね。
日本では携帯電話用の小説などはあっても、電子ブックを大規模に扱うような環境がありません。存在するのはオタク系の「コミック同人誌」ぐらいですね。
おたくの世界は既にここまで進んでいる・・・

インターネット、Web というものを考えると、作品を作った者(著作者)が価格も内容も自分で決めれることが自然ですが、一般の出版の世界はそうはなっていません。
日本には特殊な書籍流通の仕組み(再販制度)があり、日東販を代表とする「取次」と呼ばれる問屋が全てを抑えていると言われています。
○ 出版した新刊本はまず取次に納品されます。
○ 次に取次から書店に配本されて店頭に並びます。
○ 書籍がどれ位売れるかは不明ですが、書店での実売数量にかかわらず
取次は一定期間を経ると納品分の幾らかを前払いで出版社に支払います。
○ 最終的には書店から売れ残りが返本されてきて精算することになります。
○ 販売量が前払い分よりも少ないと出版側は返金しなければなりませんが、
このタイミングで次の本を出版し、その前払い分で相殺すれば金繰りを回すことができます。
○ また、雑誌は販売量よりも広告のプラットフォームとして機能し、
広告料によってその体制を維持していることは誰でもが理解していることです。

つまり日本の出版社はこのような自転車操業を繰り返しながら日々やり繰りをしているのが実情です。「取次」はこの仕組みの中であたかも延々と追い貸しを繰り返している金融業者のような存在となっています。電子ブックの展開はこのような日本の再販制度を崩していくきっかけになると考えられます。
こうした再販制度は実質的な「価格カルテル」なのですが、在庫というリスクを上手くカバーするために作られた仕組みでもあり、これまでは上手く機能してきたとも言えるでしょう。しかし、電子ブックは電子メディアですから在庫という概念自体がもう存在しません。返品という概念もありません。流通を考える必要もありません。電子ブックが欲しい人は売っているサイトにアクセスして自分でダウンロードすれば良いだけです。つまり、著作者がサイトを自前で準備するならば、著作者は出版社であり、かつ書店でもあることになります。「取次」という金融業者に牛耳られる必要もないため、自分で価格を決め、自分で利益を作り上げることが出来ます。
電子メディアの普及は、流通に抑えられていた権利を開放し、クリエイターが自分で利益を獲得する道を開きます。著作権の侵害や模倣、海賊本の出版など処理が手軽になるために起こって来る問題もありますが、時代が環境を変えていることを前提にして新しい問題には新しい解決策で対応することを考えるべきでしょう。
やみくもにこれまでの仕組みを守ることに固執すると、電子出版の世界でも日本のガラパゴス化が始まってしまいます。リスクのない世界は確かに安定していますが、進歩がありません。江戸時代のように時代がゆっくりと進むのならばそれでも構いませんが、じっとしていると世界の連中に支配され富を略奪されるのが今の時代です。
これまでも日本が技術の先鞭を付けたものは沢山存在しましたが、既存の仕組み(既得権益)に阻まれてその業界や産業が発達せず、遅れてやってきた世界の標準を採用しなければならなくなったものが沢山あります。
電子出版の世界もソニーが E-Ink を使用した LIBRIe を Kindle よりもずっと前から実用化していましたが発展しませんでした。結局は Amazon.com、Apple、Google、Microsoft、Barnes & Noble など世界の強豪が出てくるところまで来ないと世界が読めません。音楽出版にしても既得権益を守っているうちに Apple のダウンロード販売の世界に押され、最終的には DRM を外すということになります。
技術的には世界の最先端を行っているガラケー(ガラパゴス・ケータイ)ですが、高々1億台の市場を取り合いしている内に、量産規模で世界のメーカーに追い抜かれ、世界では見る影もない状態です。そう言っている内に iPhone が発売されて、そして iPad と電子ブックの時代に入りました。
スマートフォーンは標準の Web へアクセス出来るだけでなく、アプリケーションもインストール出来て殆ど PC(本来のパーソナル・コンピュータ)の領域を確保しつつあります。iPhone と Goole 産の Android OS との戦いはこれからが本番です。その戦いの中でまた日本の出る幕はなくなるのでしょうかね。
業界の既得権益だけに目が行ってしまうとエンドユーザの動きが見えません。最終顧客の要望や意向を盛り込む積極的なイノベーションがなければ、気がついたときにお客さんがいない・・という結果になり、業界そのものが亡くなっていく結果になってしまいます。
いつの時代にもイノベーションにはジレンマがありますが、思い切って超える勇気が未来を作るのだと思います。
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