
トヨタのリコール問題は、豊田章男社長が公聴会で説明し、その後の積極的な販売キャンペーによって業績の回復が見え始めてきた感触がありました。しかし、何とか大きな山場を乗り切ったかのように見えたのも束の間、残念ながらまだまだトヨタへの攻撃は続くようですね。
何故ここまで問題がこじれるのか? 以前の記事でもその原因というか本質はまだ判明していないと書きましたが、米国の狙いはどこにあるかまだ良く分かりません。特に最新ニュースとなっているレクサス「GX460」のリコールに至っては「これは何を意味しているのか?」更に分かり難くなったという印象です。
「とにかく品質の問題だよ!」と言うのは容易いことですが、トヨタの品質が本当に問題ならば他メーカの品質に何故メスが入らないのか?同じようにリコールを実施している他のメーカーのニュースが何故大きく取り上げられないのか?疑問が残ります。特に今回のレクサス「GX460」の件が米消費者情報誌「コンシューマー・リポート」からの記事が発端となっていることは驚きです。
「コンシューマー・リポート」は米国でかなり多くの読者を持つ情報誌で、私も良くその記事を読みます。コンスーマーズ・ユニオンが発行するそのレポートは、様々な消費財(製品)の比較検討を独自の研究施設を利用して実施し、出来る限り公平な目で製品評価行われる信頼性の高いものです。毎月の発行部数は約400万部もあり、市場におけるその影響力は非常に大きいと言えます。また、独立性・公平性を維持するため各号誌面には一切の広告が掲載されていません。TV の世界における C-SPAN と同じくこのような情報誌が日本にもあれば良いだろうなあ・・いつも思っていました。
例えば、車に関して言えば、テストする車両自体も全て自費で購入し、自社のテストコースで自社のテストドライバーを使って試験をする。テストする内容もメーカーのテストとは異なった消費者の目線で決められ、各社の車のテスト結果が一覧となってレポートされる。何処にもメーカーや販売会社の意向が入り込まないその姿勢は素晴らしいポリシーだと言えます。


「コンシューマー・リポート」の発する客観的なレヴューはトヨタ車に対しても常に正しい評価を与えてきたと思います。「トヨタ叩き」が続く中でも「今年の自動車ベストランキング」特集号で、レクサスの旗艦車種「LS」に北米市場における最高のクルマという評価を与えています。そして実際のユーザーもその評価を信じて来たのがこれまでの経緯だと思います。
正直言って「コンシューマー・リポート」における日本車の評価は常に高く、アメリカの雑誌でありながら本当に公平な評価をしているなあ・・と思える米国でも数少ない情報メディアです。
その「コンシューマー・リポート」が突然「レクサスGX460」に「買ってはいけない車」という評価を出したのですね。それは俄かには信じがたい内容であり、「そこに何が潜んでいるのか?」と勘繰りたくなる心を起こさせてくれます。
如何に公平な目を持つ「コンシューマー・リポート」と言えども、米国メディアが揃ってトヨタを叩いている時に堂々と反対意見を述べることは勇気のいることです。それを敢て行ったことによって販売数の低下を招いたのではないか、という意見も見受けられますが、米国の雑誌は殆どが定期購読によって読まれていて、売店や書店等での直接販売の比率は極めて小さいことを考慮すると、購買の総数が簡単に下がるとは思えません。
ちなみに「コンシューマー・リポート」の店頭売りの価格は一冊当たり約 6ドルですが、定期購読すると一冊当たり約 2ドルになります。車に限らずコンピュータから洗濯機、石鹸や洗剤、芝刈り機や大工道具まで何でも調査して製品比較をレポートしてくれるその内容はまさに消費者の味方です。車のことだけで購買が変化するというようなことはあり得ないでしょう。
逆に「コンシューマー・リポート」としては「トヨタ贔屓をしている訳ではない」「我々は常に公正な評価をしている」ということを印象付ける狙いがあり、「常に高評価を与えているトヨタ車に対しても我々はこのような厳しい目を向けている」ということを示したのかも知れません。
トヨタ側も「コンシューマー・リポート」の記事に素早く反応してレクサス「GX460」のリコールを決定したことは、これまで常に高い評価でトヨタを応援してくれた(贔屓ではなく正しい評価でしょうが)「コンシューマー・リポート」に思い切って仁義を切ったようにも見えます。もちろん問題を長引かすことは更に信頼回復を遅らすことにもなり、米国政府との折衝にも大きなマイナスになるという判断も働いているでしょう。
「コンシューマー・リポート」による「買ってはいけない車」の記事はここにあります。
以下は「コンシューマー・リポート」が発表したレクサス「GX460」に関する動画です。
「GX460」が急カーブで横滑りした場合、電子制御による横滑り防止装置の作動が遅く、他メーカー車に比べて大きく横に滑るということで、「横滑りした状態で縁石などに接触すると横転する可能性がある」「最悪の場合には死亡事故につながる恐れもある」ということです。
しかし、高速で急カーブを切ればどの車でも横滑りします。「アンダーステア」「オーバーステアー」という言葉があるように、車はそうした横滑りを制御しながら走るのが普通です。
また、レクサス「GX460」はオフロード(舗装していない道や整備されていない土地)での使用を前提にしているような車であり、車高も高く出来ているため、限界に近いスピードで急カーブを曲がりながら急ブレーキや加速減速を行うと、最終的に横転する可能性があるのは誰が見ても明らかです。
「コンシューマー・リポート」のこのような論調は日本語で言うところの「難癖を付ける」ようなものに見えます。政治的な意図がその奥にあるのかという気にもなってきますが、雇用問題を含めた米国の中間選挙、GM や クライスラーの復活を印象付けるための操作、日本の米軍基地問題に関する政治的な牽制など考えさせられる内容も沢山あります。政治的な要因が含まれていることは間違いないと考えていますが、技術的な視点から課題として挙がられる項目として「電子制御に対する懸念」があります。プリウスなどのハイブリッド技術には沢山の電子制御のノウハウが詰っていますが、今回の「GX460」の横滑り防止機構も電子制御によって処理されています。電子制御で世界をリードしているのは日本であり、アメリカはその領域ではもう周回遅れになっていると思われます。この疑いようのない事実を引きずったままでは米国車の復活はあり得ないでしょう。
電子制御とは組み込まれたソフトウエアの塊であり、外からは見えないブラックボックスです。ペンチやプライヤーでいくら箱を潰しても中身がどうなっているか分かりません。そこに組み込まれたノウハウは数えきれないテストを繰り返して作り上げられるものですから、例えソースコードを解読出来たとしても環境全てが手に入らない限り、処理されている中身が理解できるとは思えません。

このまま日本車に電子制御でリードされながら、ハイブリッドから電気自動車の時代へ突入されると電池技術と電子制御で日本の優位性が盤石なものとなり、米国の復活に赤信号が灯ります。しかし、幾ら技術が優れていても製品が売れなければその企業は存続できませんから市場から退場しなければなりません。
プリウスのブレーキ問題も電子制御が話題となっていますが、こうした電子制御に関する問題を続けざまに発生させ、電子制御は完全ではない、車は人間が運転するもの、ソフトウエアで人間の感性を処理することはできない、運転の楽しさはもっと他にある・・・というところに消費者の目を向けさせ、GM 等が日本車と戦える状態に戻ってくるまで日本車の快進撃を少しでも留めておきたいという思惑があるのかな?と勘繰っています。
だからと言って、電子制御に問題はないということを証明するためにブラックボックスの中身を明らかにしてしまうと膨大なノウハウを盗まれてしまいます。製品の品質はクレームに対処しながら上がっていくものです。無理難題を背負わされてもそれを一つ一つ解決していくことで他の追従を許さない品質が作られます。トヨタはこうした逆風に正面から品質で応えていけるはずです。決して変な妥協をしてはいけません。
ノウハウは人間ごと取り込めば獲得できるという考え方もあります。韓国企業であるサムソンの躍進が続いていますが、元々は日本企業でそれ程優遇されていなかった設計技術者や製造技術者を高待遇で引き抜き、頭脳ごと経験、知識、ノウハウを取り込んだことがその原動力になっているという話は有名です。同じようなことはこれからも発生するでしょう。

そういう意味で日本企業には脇の甘さ、弱点があります。もう少し突っ込むならば、日本の法体系(スパイ防止法がない)、国益という視点、日本そのものの生きる道は何か、そのために何を整備し、どう行動するか、というような地に足のついた議論と政策がなければ日本人はただ必死で働きながら、その成果を何時も世界に持って行かれるだけという生涯しか送れないことになってしまいます。
勝つためにはどんな手段をも取ってくる世界のビジネス社会を生きるためにも、日本を代表する企業であるトヨタへのバッシング内容とその対応には今後とも注目して行きたいと思います。
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