BP の経営にも大きな影響が及ぶでしょうが、米国政府自体へも非難が向けられる結果となって来ています。オバマ政権はこの事故からの悪影響を最小限に食い止めるため、ついにオバマ大統領が全米に向けて今後の対策と方針を伝えるという結果となりました。ここまで来るとこの災害は 「BP の起こした事故」から「エネルギー政策を見越した政治問題」へと発展したと言えそうです。
オバマ大統領は 15日夜、ホワイトハウスの大統領執務室から全米に向けて 18分間のテレビ演説を行っています。この演説は Google が YouTube で中継したこともあって世界に向けてオバマの意思を伝える手段にもなりました。
原油の流出を止めるにはまだ後数週間はかかるということ、数週間とは何時なのかは分かりませんが、現在の予想ではリリーフ井戸が完成するまで、つまり「夏の終わり頃」だろうというのが大方の見方です。ということは数個の大型ハリケーンを避けることは出来そうにない・・・ですね。たとえ流出が止まっても被害の復旧には時間がかかります。演説の中でも「今後何カ月も、何年にも及ぶ戦いになる」と述べています。
また、オバマ大統領はこの事故を受けて、米国が化石燃料依存から脱却するためにクリーンエネルギー政策が今こそ必要だと訴えています。「今こそクリーンエネルギーの未来を受け入れる時だ」と。これは現政権が進める米国におけるクリーンエネルギー経済の発展を促す「エネルギー改革法案」の可決を促すことでもあり、この災害を梃子にして政策の推進を計っているとも言えます。
もちろん、災害対策にかかった費用と損害賠償はすべて採掘権を持つ BP に負担させると明言し、事実 16日には英メジャー(国際石油資本)BP のスバンバーグ会長とホワイトハウスで会談し、BP 側が 200億ドル(約 1兆 8280億円)を拠出することを正式合意させています。これまで政府の対応は後手に回っていると批判されていたことから、何とかここで具体的成果を示したかったオバマ政権としては一つの結果を勝ち取った形となりました。

オバマ大統領は会談後、被害補償額の「200億ドルは上限ではない」と述べ、今後の被害拡大への負担の上乗せも有りうる事を強調すると共に、預託資金の管理は 2001年 9月の米国同時テロ犠牲者補償基金を管理したケネス・ファインバーグ氏に任せることも発表しています。このような形態を Escrow と言いますが、欧米のビジネス契約などでは良く見られる第三者を介して処理(決済)を行う仕組みです。
事実まだ原油の流出は続いていますので、最終的な被害総額がまったく想像できない中での巨額資金の拠出は異例だと言えますが、そこはアメリカ政府が押し切った形です。まあ「怒りのアメリカ」は放っておくと何を始めるか分かりませんから BP つまり英国政府としてもここは妥協しかないでしょう。
また BP は補償の原資を捻出するため、株主への配当を年内は見送ると表明しています。
日本の感覚から見れば「そりゃー当たり前だ!」と感じますが、老後の生活を貯金(という現金)に頼る日本式ではなく、証券や株式からの配当に頼っている割合が多い西欧の世界では配当が止まるということは高齢者の生活を直撃する事態ともなりますので、そう簡単に株主の理解を得られないのが実情です。
日本企業の経営は株主の力が相対的に弱く「物言う株主が必要だ!」などとも言われますが、欧米の企業では資本と企業経営とが分離されているので、株主の理解が得られなければ経営陣は簡単にクビになります。
「企業の業績が良いということ」 = 「配当がしっかりと行われる」という事ですから、それに合わせて経営陣が莫大な報酬を得ることも問題とは見なされません。
反対に配当が無くなれば「経営陣を変えろ!」という声が上がり、簡単に首が挿げ替えられる結果となります。

それでも最悪の事態を避けるために、BP のスバンバーグ会長は既に表明していた第 1四半期の配当の中止、第 2および第 3四半期の配当も見送る。「年内は配当を見送る」こととなったようです。声明で「配当見送りは遺憾だが、BP および株主にとって最善の利益になるとわれわれは結論を下した」ということのようです。
キャメロン英首相は「BP は経済的に重要」と語りながら BP を擁護(破産回避)する方向へ世論を向けようとしていますが、具体的に何か手を出せる訳でもありませんので、英国政府としても難しい舵取りを要求されています。英国の年金基金は BP 株式を大量に保有しています。つまり BP が支払う配当金の有無は英国の年金受給者へ大きな影響を及ぼし、英国政府にとって無視できない内容を含んでいます。
しかし、これは当のアメリカにも言える話です。BP の 2009年の配当金は約 100億ドル(9,100億円)と言われ、カリフォルニア州やテキサス州の退職年金基金は BP の大株主であり、BP の配当金は大きな収入源となっているという関係があります。つまり無配になれば収入源が途絶える高齢者がアメリカにも沢山いるということですね。
200億ドルの預託金、配当の停止とそれなりな対応を重ねる BP ですが、今後どれ位の費用が必要になるかは全く分かっていません。原油流出が止まったとしても、その原因の究明、環境保護、現状回復への対策費用だけでなく、今後沢山発生する米国裁判所での相次ぐ判決による賠償金がその上に重なっていきます。
メキシコ湾岸の観光業(年 570億ドル規模)への補償費用、水質浄化法が適用されると流出した原油 1バレルに対して 4300ドルの罰金を科されます。これまでに流出した原油は 300万バレルと推定され、流出が止まるまでに更に 200万バレルは流れだすと予想されるためその罰金は約 200億ドル。
それでも BP はこれらの費用を支払う事が出来るだろうと言われています。いやはや・・・メジャー(国際石油資本)の世界は何とも巨大で私達の想像の世界を超えています。クレディ・スイスによると、BP は年間 50億ドルから 60億ドルのフリー・キャッシュフローを生み出すと予測され、その資金と 270億ドルの借り入れと、1年間の配当の停止で現状求められている 490億ドルを支払えるということです。
ちなみに、BP の総資産は 2009年で 20兆円以上あり、資本金を含む純資産も 10兆円程度あるということです。その BP も売り上げ規模では世界 3位で、上にはさらに「英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル」そして「米エクソンモービル」がいます。
浄化作業
とにかく流出した石油を浄化しなければなりません。

先日 BP が俳優のケヴィン・コスナー氏が私財を投じて開発援助した海水の浄化機械を使用することを決定したというニュースがありました。ケヴィンは、科学者の兄が参加するチーム「オーシャン・セラビー・ソリューションズ」に 2000万ドル(約 18億円)を投資し、15年をかけて水と油を分離させる遠心分離機を開発。
BP は「この機械が海水の浄化に有効であると考えテストを行ったが、その結果には大変満足した」とこの機械を使用する契約を結んだようです。とにかく有効に機能して欲しいものです。

このニュースを受けて面白いパロディーが作られています。以下の動画はメキシコ湾に流出する原油を、机の上にこぼしたコーヒーに例えています。BP の数々の対策が失敗したことを上手く皮肉っているようです。
事故原因は BP の「経費削減」だろう・・・
『ディープウォーター・ホライズン』の爆発事故の 6日前に送られた電子メールで、BP のエンジニアが既にこの油井を「悪夢」と呼んでいたという履歴が見つかっています。BP のエンジニアは同僚に向けて、ガスがパイプから噴き上がり、場合によっては爆発する事態を防ぐために、油井の周囲に「ライナー」と呼ばれる被覆を使用するよう求めていたようですが、BP は「ライナー」を設置すると 700万ドルから 1000万ドルの追加費用が必要となることからその対策をしないことを決めた。
一方、油井縦坑のセメント工事を担当していた米 Halliburton(ハリバートン)社は、油井の中央に通す鋼管の位置決めを行なう「センタリング装置」を 21機使うことを推奨した。鋼管が中央からずれると、セメントの硬化速度が場所によって異なり、隙間や溝ができるため、構造が弱くなって失敗する可能性が高くなる。しかし BP はセンタリング装置を 6機しか使わなかった。
『ディープウォーター・ホライズン』に関する 4月中旬の報告書には、「セメント工事が成功したとは考えにくい」とある。しかし BP は、セメントが確実に固まっていることを 1日かけて評価する「セメントボンド検層」を拒否した。評価を実施するために到着した作業員は送り返された。

さらに BP は、掘削時に油井にたまった泥を循環させる作業も適切に実行しなかった。その結果、油井の底に泥が残り、ガスや堆積物を吸収して、油井の土台部分のセメントがさらに弱くなった。油井のすべての泥を循環させるには 6 - 12時間を要するが、この作業は 4月19日にわずか 30分間行なわれただけだった。
こうした短縮の背景には「工期が 1日遅れると、リグのリースや請負会社への支払いで 100万ドルのコストが発生する」という理由あったもよう。
しかも BP は「ロックダウン・スリーブ」も使わないと決定した。これがもし利用されていたら、海底から出ている油井の上部が保護されていたかもしれない。
現状では以上のような事故発生要因の分析がされています。
環境対策
とにかく今後どのような環境面での被害が出てくるか分かりません。メキシコ湾に流出した原油を分解するための「分散剤」が持つ環境への影響にも懸念が高まっています。

分散剤は、油を小さな油滴に分解するもので、小さくすることで速やかな生分解を促します。油が付近の沿岸でなく海中で分解するため、沿岸の貴重な生態系への被害を抑えることができます。深海の生物は犠牲になりますが海岸線は守れるという処理です。
しかし、分散剤の使用には多くの疑問が上がっています。分散剤それ自体が有毒物質であり、海洋生物にどのような影響を与えるかは未知数です。また、これまでこれほど大量の分散剤が使用された例がないこと。水深約 1.6キロメートルの海中にある油井の出口部分に、分散剤を直接注ぎ込む試みも今回が初めてで今後どのような影響が発生するか分からないこと。
また、それらの影響が最終的には食物連鎖を経て生物の体内で濃縮されるという恐れもあります。
災害の規模と、その被害・影響などが大き過ぎて今回の原油流出事故の最終結果がどの辺りに帰着するかは想像もできませんが、米国のエネルギー政策の一つの転換点となる可能性もありそうです。そうすると最終的には世界の産業構造にも影響が及び、数年先の私たち庶民の生活までも変化することとなるのでしょうね。
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